First Creation: 2004/07/14
Last Update: 2005/09/14
痛風の原因となるプリンについて
ありがちだが、プリンと聞いて最初に連想したのはあのデザートである。むろんそうではなかった。調べていくと、プリン体やプリン塩基、プリンヌクレオチドという単語がヒットするではないか。
プリンヌクレオチド? 得意分野っぽかったので、その辺りから入って行くことにした。
ヌクレオチドというと、DNA や RNA を構成する、G(グアニン)、C(シトシン)、A(アデニン)、T(チミン)、それにもうひとつの U(ウラシル)である。正確を期すなら、ヌクレオチドとはリン酸+デオキシリボース(糖)+塩基であり、G C A T (U) が塩基に当たる。
DNA を構成する塩基は、G C A T、RNA を構成するヌクレオチドは、G C A U (U は T の代わり)だ。この中で、プリン塩基と呼ばれる塩基が G と A であり、C と T (U) はピリミジン塩基と呼ばれている。
閑話休題
「DNA はヌクレオチドが多数連なったもの」ではあるが、情報処理の分野で必要なのはヌクレオチドから糖とリン酸を除いた塩基部分である。塩基 3文字のセット(コドンという。コードの単位の意)で人体のタンパク質を形成する 20種類のアミノ酸の一つを表すことができる。GGG がグリシン、AAA がリシン、TTC がフェニルアラニン、GCT がアラニン、という風に。(なお、生物種によってはコドン表が異なる場合もある)
「4文字の塩基が 3つあるなら、4 * 4 * 4 = 64 種類じゃないのか?」
という疑問を抱いた人は考える能力がある。その答えは、1つのアミノ酸が複数のコドンに対応しているからだ。TTA TTG CTT CTC CTA CTG がロイシンというアミノ酸に対応しているように。また、特殊な意味を持つコドンもある。TAA TAG TGA という 3種類の終止コドンだ。終止コドンはコード領域の終わりを示す塩基配列である。終止があるなら開始もある。それが ATG が対応する開始コドンである。ATG はメチオニンというアミノ酸にも対応している。したがってコドンが対応するアミノ酸は 20種類なのである。
プリン塩基とは、プリン核を含む塩基のことらしい。正確に言うなら、
「プリン核をもつ化合物のうちで塩基性を示すもの」
なのだそうだ。アデニン・グアニン・カフェイン・テオブロミンなどがそれにあたる。
ではプリンとは何か、という話になると、「化学式は C5H4N4。無色の針状結晶で、融点 216〜217℃。水や熱エタノールに易溶。生体内にはアデニン・グアニンなどの誘導体として存在する。核酸の重要な成分。カフェイン・テオブロミンなどはアルカロイドの構成成分」である。
ということは、プリンヌクレオチドというのは、A や G を含むヌクレオチドということになり、
がそれに当たる。
そしてプリン体というのは、「プリン環(purine ring)を化学構造にもつ物質の総称。細胞の核にある核酸の成分。生体内でアミノ酸から作られるほか、食物として取り入れられる。余分なプリン体は代謝されて尿酸に変る」ということらしい。
上記のことを踏まえると、プリンという構造が最小単位で、プリンと結合しているアデノシンのような化合物で塩基性を示すものがプリン塩基、プリン塩基を含むヌクレオチドがプリンヌクレオチド、プリンと結合している化合物を総称してプリン体、と呼ぶのではないだろうか。
(プリン<プリン塩基<プリンヌクレオチド)=プリン体
肝心のプリンという物質について、少し補足する必要があるだろう。
「プリンは化学式 C5N4H4、分子量 120.1 の含窒素芳香族化合物。アデニンやグアニンなどの核酸構成塩基の骨格として広く生物中に存在している。極性溶媒によく溶けるが無極性溶媒には溶けにくい。4つのアミノ酸と二酸化炭素によって生合成されるが、工業的に生産することもできる」、だそうだ。
はっきり言って何のことやらさっぱりだ。C を含む化学式が出たところでなんとなく六角形を思い浮かべるが、それが正しいのかどうか。
調べてみることにした。
仕入れた情報が正しいかどうか、分子量を計算してみる。
C5N4H4 の意味するところは、C(炭素原子)5つ、N(窒素原子)4つ、H(水素原子)4つの化合物であるということだ。
分子量を計算する時は、13C(相対質量 13)や 2H(相対質量 2)などの同位体は考慮に入れない。
天然に存在するほとんどの元素は、質量数の異なる同位体が一定の割合で混ざっている。
その元素を構成する同位体の相対質量の平均値をその元素の相対質量として用い、その値を原子量という。
C5N4H4 の分子量を計算しよう。上記の表から計算してみると、
( 12 × 5 ) + ( 14 × 4 ) + ( 1 ×4 ) = 120
だいたいあっていることが確認できた。
次に含窒素芳香族化合物についてしらべてみた。
芳香族化合物とは、狭義には「ベンゼン環を含む化合物」とある。ベンゼンを化学式で表すなら C6H6 で、六角形の形を思い浮かべてもらうといいだろう。
芳香族という名がついているのは、ベンゼン環を持つ化合物が特有の匂いを発していることからついたものだろう。香水として用いられる芳香族化合物もあるし、ベンゼン自体も、微妙ではあるが特有の匂いがする。発ガン物質だが。アロマテラピーの香り成分にもベンゼン環を持つ分子がたくさんある。ただし全ての芳香族化合物に匂いがあるわけではなく、無臭のものもある。
つまり、含窒素芳香族化合物とは、窒素原子を含んだ芳香族化合物のことなのだ。
プリンに関して、だいぶイメージがつかめてきた。
分子量 120、含窒素芳香族化合物、グアニンやアデニンを構成する要素。グアニンやアデニンは動物植物を問わず、生物の DNA を構成する要素の半分を占める。
細胞の中には細胞核があり、細胞核の中には DNA がある。DNA は G C A T で構成され、その中の G と A がプリンを含んでいる。
そうなのだ、私たちは細胞を摂取することで、プリン体を摂取しているのだ。
「ビールにプリン体がどうのこうの」というレベルの話ではない。痛風患者に対してビールを禁止する理由は、ビールにプリン体が含まれるからだ。しかし核酸が多く含まれる食べ物には、ビールなどよりはるかに多くのプリン体が含まれるため、プリンヌクレオチドの分解の最終で尿酸が合成されてしまう可能性が高くなる。
痛風にかかったら、ビールを制限するのではなく、食べ物の方をこそ、気をつけなければいけないのである。
というわけで、ビールを禁酒して肉を食ってる場合ではないのだよ > K氏