ちなみに現在は 1個のアドレスを複数のパソコンがシェアする NAT やプライベートアドレスなどの対応策が採られている。しかしこのプライベートIP の利用により、インターネットの本質とも言うべき End to End の理念は歪められ、さまざまな不具合が生じている。ADSL に申し込みをしてルーターを使い始めてから MSN メッセンジャーでファイルが送れない、音声が届かない、等の不具合はないだろうか。このような現象は、プライベートアドレスを使用した不具合の典型的な症状だ。ファームウェアバージョンアップで、UPnP 機能が使えるようになることもあるが、そうでない場合もあるから注意が必要だ。
インターネット側から何か情報が送られるときは、61.1.2.3 というアドレスに対してデータが送られてくる。データを受け取ったブロードバンドルータは、LAN内のどの PC にデータを渡せばいいのか判断して、192.168.0.2 等の PC へデータを渡す。
これがインターネット→プライベートアドレスへデータが渡されるときの流れだ。データがルータを通してプライベートアドレスに渡されるとき、ちょっとした変換(といって分かりづらければ欠落と言おう)が起こる。そのために、データが正常に PC に届かなかったり、PC からインターネット側にちゃんとデータが流れなくなって、さまざまな不具合が起こるわけだ。
さてブリッジモードの場合は、以下のような流れになる。
PC を立ち上げても IPアドレスは払い出されない。
もちろん LAN を組んでいて、DHCP サーバを自前で用意しているような人は別だが、一般的なユーザの利用法は、
モジュラージャック - スプリッタ - ADSLルータ - PC
というカンジだろうから、そういう構成で考えることにする。
さて、PC が保持しているのはグローバルな IPアドレスであり、インターネット側から流れてきたデータは、何の変換もなく直接 PC に送られる。ただしブリッジモードで利用するとルーターのセキュリティ機能が働かないし、複数の PC からは接続できなくなるので不便ではあるが、そこは工夫次第でなんとかなるものだ。一台を中継地点(つまりプロキシ、ゲートウェイ)にしてページを見に行かせたりメールを受信したりすることもできるが、まあそんなことを思いつくひとはこのページを見てはいまい。
IPv4 を利用した現状が進行すれば、将来的にほとんどの端末がゲートウェイの向こう側に位置することになると予想される。つまりいっそうプライベート IP や NAT の利用が激しくなる。End to End の理念はもはや形骸化したと言ってよい。
これだけ IPアドレスがあれば、すべての PC に IPアドレスを割り振ることはおろか、すべての電化製品に対しても IPアドレスを割り当てることができる。実現しそうでしなかった、家の外からDVDレコーダーをコントロールしてデジタル放送を録画したり、携帯電話からお風呂を沸かすこともできるようになるかもしれない。となるとクラッカーどもが気に入らないやつの家の電子レンジと電磁調理器とエアコンとドライヤーを同時につけて停電させることもできるのか。なんとすごい世の中だろうか。
そういえばナイトライダーのキットは電子式でもない車のロックを ON にして犯人を車の中に閉じ込めたり、ホテルの鍵(電子式などではない)を開けてマイケルを不法侵入させたりしていたが、今にして思えば、ようやく彼らに現実が追いつきはじめたと言うところなのだろう。ただ、真にキットのレベルに追いつくためには、科学技術のブレイクスルーを 5段階ほど突破するか、現状の科学技術とは別の技術体系が必要となるなのは間違いない。